コラム
補聴器について

骨伝導補聴器が日本で普及しないのはなぜ? デメリットは?

骨伝導という言葉を聞いたことがある方も多いと思います。

近年、骨伝導を利用したイヤホンや集音器などの聴覚デバイスが注目されているようです。補聴器にも骨伝導の技術を利用した製品は100年以上前からあります。

実は骨伝導イヤホンや骨伝導集音器は、骨伝導補聴器の技術を応用して開発されました。

しかし、日本では骨伝導補聴器は難聴者には普及しておりません。

今回は、骨伝導補聴器が日本の難聴者に普及しない原因であるデメリットを解説します。また、骨伝導補聴器を購入する手順も紹介します。

骨伝導補聴器の今昔

骨伝導補聴器の歴史は古く、1932年にアメリカのsonotone社が携帯型骨導補聴器を発明しました。さらに歴史を遡れば1912年にWestern Electric社が骨伝導を利用した補聴機器を製作していた記録も残っております。
日本においても1980年代に松下通信工業社やコルチトーン社が骨伝導補聴器の輸入販売を開始しています。

イヤホンや集音器に注目される骨伝導

近年では、100年以上の歴史を持つ骨伝導の技術はイヤホンや集音器に取り入れられるようになり、革新的なデバイスとして注目を浴びています。

これは、多くの人が骨伝導技術を用いたイヤホンや集音器の利便性を享受できているからです。

具体的には、こもり感やひびき感の解消、外耳道内の衛生面の確保などのメリットもあり、開発が進む中で省コスト化による価格低下などで気軽に購入できるようにもなりました。

骨伝導補聴器は市場から消えつつある

骨伝導補聴器の技術はイヤホンや集音器にも応用されるようになりましたが、その元となった骨伝導補聴器は、難聴者の間ではほとんど使用されていないのが現状です。

現在、日本補聴器工業会所属の補聴器メーカーで骨伝導補聴器を一般に市販しているのは、コルチトーン、リオン、スターキーの3社に限られています。この3社から市販されている骨伝導補聴器は10年以上前から進歩しておらず、一般の難聴者向けの新製品が登場する見込みは今後もありません。

骨伝導補聴器の新製品が登場しない最大の理由は、そもそも製品開発が行われていないからです。

骨伝導補聴器は長い歴史の中で幾度と臨床試験を重ねてきました。その結果、ほとんどの難聴者には十分な効果が得られない、もしくは効果が得られたとしてもそれを上回る不利益が生じかねないことがわかっています。

イヤホンや集音器とは異なり、骨伝導補聴器の利便性を享受できる人は少数とされています。
そのため、骨伝導補聴器の新規開発は止まってしまいました。

一方で骨伝導技術を活用することによって補聴効果を得られる難聴者がいることも事実です。
現在では骨伝導補聴器から進化を遂げた「軟骨伝導補聴器」や「骨固定型補聴器」の研究や製品開発が行われています。

ただし、軟骨伝導補聴器と骨固定補聴器はいずれも一般に市販されておらず、耳鼻咽喉科医師により装用指示が出された場合にのみ購入が可能です。

骨伝導補聴器の2つのデメリット

どうして、骨伝導補聴器は、多くの難聴者に効果や利便性が得られないのでしょうか。

その主な理由は2つあります。

1つ目は、中等度以上の難聴者が骨伝導によって聴覚を補うには大きなパワーを必要とするからです。
2つ目は、骨伝導補聴器は音質の担保が難しいからです。

この章ではそれぞれのデメリットを解説します。

骨伝導補聴器にはパワーが必要

骨伝導補聴器を利用して難聴者が音声を聞き取るためには、補聴器自体に大きなパワーが必要になります。音の大きさは「dB」という単位で表されていますが、この単位は音の強さとは異なります。

それでは、補聴器に必要なパワーとはどのようなものでしょうか。

音を聞き取る力;dB(デシベル)と骨伝導

人が音を聞き取る力(聴力)は、dB(デシベル)という単位を使って表されます。

耳鼻咽喉科などで行われている聴力検査では、耳の入口にヘッドホンを当てる「気導聴力検査」と、主に乳様突起にトランスデューサー(振動端子)を当てる「骨導聴力検査」があります。気導と骨導のそれぞれで、その人が聞き取ることのできる最小の音を調べます。

20代の健康な人が聞き取れる最小の音の平均を0dBとしています。難聴が進むと、聞き取れる最小の音の値は5dB、20dB、60dBと大きくなります。特に耳が良い人は、0dB未満(-5dBや-10dBなど)の音量を聞き取ることもできます。

dBは「音の大きさ」であり、「音の強さ」ではない

dBは人間の耳を前提にして作られた音量の単位です。0dBから20dB、20dBから40dB、どちらもその差は20dBです。人間の耳では、0dBから20dBの差と、20dBから40dBの差はおおよそ同程度に感じると考えられています。

しかし、この20dBの音量差における音の強さ(音圧)は等間隔ではありません。

0dBから20dBの差も、20dBから40dBの差も、その力の差は10倍です。

0dBのパワーを「20」としたとき、20dBのパワーは「200」、40dBのパワーは「2000」になります。どちらも20dB差ですが、それぞれのパワーの差は180と1800で大きく数値が異なります。

人の耳は、このパワーの差を「音の大きさ」と捉えているのです。

難聴が進むほど、音のパワーが必要

難聴が進み聴力レベルが6dB大きくなると、耳が聞き取ることができる音のパワーは2倍ずつ増加します。20dBに対しては10倍の増加です。
12dB難聴が進行すれば4倍のパワーが必要になり、18dBなら8倍、40dBなら100倍、50dBなら320倍です。

骨導聴力が0dBの健聴者に必要なパワーを20とした場合、骨導聴力18dBの軽度難聴者に必要なパワーは160なのでその差は140で済みます。ところが骨導聴力が50dBの中等度難聴者に必要なパワーは6400になるため、パワーの差は6380も必要になります。

健聴者であれば少ないパワーしか必要としないため、骨伝導イヤホンや骨伝導集音器でも音を聞き取ることができるでしょう。

しかし、難聴が進むほど必要なパワーはどんどん大きくなるため、なかなかうまく聞き取れなません。

気導補聴器は省エネルギー

気導補聴器は骨伝導補聴器ほど大きなパワーは必要ありません。

骨伝導補聴器が内耳に音を直接的に届けることに対して、気導補聴器は鼓膜と中耳を中継して内耳に音を届けることができるからです。

鼓膜と中耳は、音の感覚を20倍~30倍に増幅させる役割を持っています。気導補聴器は鼓膜をわずかに振動させるだけで、十分な音量を内耳に届けることができます。

難聴者向けの骨伝導補聴器が作れない理由

骨伝導補聴器にパワーが必要ならば、それに相応する高出力の骨伝導補聴器を作れば解決するのではないかと思う方もいらっしゃることでしょう。
理屈の上ではその通りですが、実用化は非常に困難です。

骨伝導補聴器の端子が振動が強くなるほど、同等以上の圧力で端子を頭部に圧定する必要が生じます。端子の振動より弱い力で抑えつけようとしても端子が頭部から外れてしまうからです。

パワーの強い高出力の骨伝導補聴器を作ったとしても、長時間装用することによって痛みや血行不全のリスクが生じてしまいます。無理して使用を続ければ、頭蓋骨が凹んでしまうことも起こりえます。

骨伝導イヤホンや骨伝導集音器は、そもそも難聴者が使用することを想定していません。

健聴者が骨伝導イヤホンで音楽を聴いたり、骨伝導集音器で音声を聴くだけなら振動端子が軽く触れている程度で十分です。しかし、中等度以上の難聴者は強い力で抑えつける必要があるため、健聴者と同じように気軽に骨伝導を使用できないのです。

骨伝導補聴器は音質の担保が難しい

骨伝導補聴器は、一般的な気導補聴器と比較すると音質が劣ってしまう傾向があります。

気導補聴器は鼓膜と中耳によって音量を増幅させて内耳に音声を届けますが、骨伝導補聴器は内耳に音声が届くまでに一部の周波数で音が減衰されることがわかっています。

骨伝導補聴器と頭蓋骨の間には皮膚が存在します。脂肪や血管などの水分も含まれます。骨伝導補聴器の振動は皮膚を介する際に、特に低音と高音が減衰されてしまうので、音質が損なわれてしまうのです。

これまでの研究結果では、気導聴力と骨導聴力の差がおおよそ40dB未満の場合、骨伝導補聴器よりも気導補聴器の方が補聴効果を得られやすいことがわかっています。

骨伝導補聴器が適している人

骨伝導補聴器が適さない人は次の通りです。
・骨導聴力が中等度難聴相当まで低下している人
・気導聴力と骨導聴力が40dB未満の人

言い換えると、「気導聴力と骨導聴力の差が40dB以上あり、骨導聴力が低下していない人」は骨伝導補聴器は役に立つ可能性はあります。

しかし、この条件に当てはまる場合でも、骨伝導補聴器の使用を推奨できないケースも珍しくありません。医療が進歩した現在では、そもそも気導聴力と骨導聴力に40dB以上の差がある方は、治療や手術によって聴力が改善する可能性があるからです。

外耳道内が耳垢で塞がっている「耳垢栓塞」の方の場合は、点耳薬や耳垢鋏などで耳垢を除去します。中耳のアブミ骨が正常に動作しない「耳硬化症」の方の場合、アブミ骨を人工セラミックの骨に取り換える手術を行います。

もちろん、誰もが治療や手術を受けられるとは限りません。

例として耳硬化症の場合は、手術は全身麻酔を使用し入院も必要となるため、高額療養費制度を利用しても10万円以上の出費がかかる場合もあります。高齢により体力面や精神面の事情から手術を断念するケースもあるでしょう。

骨導聴力が良好な難聴者のうち、何らかの事情で治療や手術を受けられない方、あるいは治療や手術で聴力の改善が見込めない方は、骨伝導補聴器が選択肢になり得ます。

そのほかにも骨固定型補聴器や軟骨伝導補聴器といった研究開発が進められている機器の使用も検討の対象となるでしょう。

骨伝導補聴器の購入手順

骨伝導補聴器の費用は片耳18万円~です。購入を検討している場合は、事前に試聴して効果を確認することが望ましいでしょう。

ただし、耳鼻咽喉科を受診せずに補聴器店で骨伝導補聴器を試聴することはお勧めしません。骨伝導補聴器の効果を得られる方は、治療や手術によって聴力が改善する可能性が高いからです。

日本補聴器販売店協会に加盟している補聴器店や、認定補聴器技能者が在籍する補聴器店では、骨伝導補聴器によって効果が得られそうな聴力レベルの方には耳鼻咽喉科の受診をお願いしております。

骨伝導補聴器を試聴した上で効果に納得して購入した場合は、自己都合による返品や返金は難しくなります。自らが納得して購入した補聴器である以上、製品や販売者に瑕疵がなければ、その責任は購入者自身です。

治療や手術によって聴力の改善が見込めることを後から知ったとしても、その事情を汲み取り返品に応じる販売者は少数でしょう。

骨伝導補聴器の購入する流れ

骨伝導補聴器を検討している方は、必ず耳鼻咽喉科を受診し「標準純音聴力検査」を受けましょう。この検査では気導聴力と骨導聴力のそれぞれを調べます。

検査後、医師に治療や手術によって聴力の改善が見込めるかを確認してください。残念ながら聴力の改善は難しいと診断された際、もしくは治療や手術を受けられない事情があったなら、骨伝導補聴器の使用が望ましいかを医師に尋ねましょう。

骨伝導補聴器の使用が望ましいということであれば、医師に「補聴器適合に関する診療情報提供書」を発行してもらい、補聴器店へ持参してください。

補聴器店では、医師からの診療情報提供書の記載に基づいて補聴器を選定し試聴を行います。

【Q&A】

Q1.おすすめの骨伝導補聴器はありますか?

A1.骨伝導補聴器は効果を得られる方が非常に限られるため、おすすめはありません。
ファミリー補聴器では、医師により骨伝導補聴器の使用が望ましいと診断された方に限り、コルチトーン社から発売されている眼鏡型タイプの試聴をご案内します。カチューシャ型、ヘッドバンド型、ポケット型等の骨伝導補聴器を希望される場合は他社をご紹介します。

Q2.骨固定型補聴器や軟骨伝導補聴器を買う方法は?

A2.骨固定型補聴器や軟骨伝導補聴器は、専門外来を設けている病院にて購入の相談ことが可能です。
かかりつけの耳鼻咽喉科医から対象の病院を紹介してもらいましょう。

ファミリー補聴器のバナー